小野寺ひかりのブログ

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2019-3-25  映画『マイ・ブックショップ』戦わない女の勝利と敗北

映画『マイ・ブックショップ』は、昨年夏からひそかに日本公開を待ちわびてた作品で、むろんその理由は、本屋が舞台だから。

今年3月に未翻訳のままだった原作も刊行され、”読んでから観る”ことができたので、なぜこれまで日本で読まれずにいたか、ということ、どのように主人公のフローレンスグリーンが書店開業と向き合ってきたのか、2点はなんとなく予習ができていた。というのも物語のエンディングに待ち受ける試練こそが本作の見どころ。

映画ならではの視点でラストシーンには味付けがすこし加えられてはいたが、書店をめぐる、「勝利」と「敗北」に意味が変わるところはない。

布陣を固めるキャストの演技力もずば抜けて高く、新聞雑誌メディアいずれの評価も高かった。

とくに今作のキーマンである老紳士を演じたビル・ナイ氏のフェロモンはスクリーンからあふれんばかりで思わず目をそらしてしまった。言わずもがな、ひと回りも二回りも若い女と恋に落ちる魅力的な俳優であることよ。。

主人公のフローレンスを演じるエミリー・モティマー氏は、居心地の悪い「つまらなそうな顔」がホントうまかった。敵対するパトリシア・クラークソン氏が演じる「執着する気高い女」グラーク夫人を”倒す”いくつかの方法を頭の中に巡らせてみたものの、フローレンスが”愛想のいい狡猾な女”だったら、ここまで「オールドハウス書店」の行く末を応援することもなかっただろう。

静かな熱情を描き出した、監督、脚本のイザベル・コイシェ氏が人生をどうとらえているのか、よくよくフィルムに表現しきっていたように感じる。

「勇気」と「愛」が人を「豊か」にすること、それは時として本によってもたらされること、というような。

タイトルに「敗北」と「勝利」と単語を選んだが、あくまでの彼女自身が、戦わずして「撤退」するところに敗北したかなあ、と。愛想などもとよりないだから、いくらでも役所にわめきたてればよかった。しかし、老紳士をうしなった悲しみとともに権力組織と個人が戦う厳しさも想像しやすい。その引き際の美しさも「オールドハウス書店」の魅力的な部分だったのだから、どうしようもない書店主フローレンス。と、ますます彼女を嫌いにはなれない。

映画終わりで、あれで終わりはかなしい!とコメントを多数聞いて、いやいやそんなのことないんじゃないか、とその結果として、彼女は「勝利」を手にしている。

町の本屋「オールドハウス書店」がいかに唯一無二の存在であったか、その書店を自ら追い出すあの街の人々がいかにあんぽんたんでしかなかったか、観ているものが分かればよい、とも思う。その気づきが得られたのが、先に触れた、ラストの味付けでもあった。フローレンスの夢は破れたが、クリスティーンがその消えることのないともし火を受け継ぎ、町の本屋がいかに偉大であるかを教えてくれている。

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