小野寺ひかりのブログ

合言葉はspark joy!=ときめく時間を楽しんでいきたいです。

20150929 「通過儀礼」1

8月1日のことだった、功介が暴力にあったのは。

 

標高350mに満たない××山の中腹で、私服姿の男子高校生4人がハイキングを楽しんでいた。気温は30度。人の理性と気温はどうにかこうにか比例するかもしれない。ひとりのささいな言動がきっかけで、場の空気が一転したから。このとき元の明るい空気を取り戻そうとしたのが功介で、得意の持ちネタを披露しようとしていた。持ちネタといっても、わざと調子づいたことをふっかけるだけであるが、仲間にはウケた。

彼は気まずいムードを無視して高めのテンションで話しかける。クラスメイト3人のうち2人はすぐに表情を崩した。功介の持ちネタがお笑いとして直接役立っているわけではない。ただ、「言ってる意味が分からない」からウケていた。怒りの最中にまるで関係のない話をされると、2通りの人間がいて、前者はこの2人で、後者は図体のでかい残りの1人である。しかめっ面のまま、ずんずんと山道を歩いていく。

とはいえ、功介を含む3人がだらだらとした会話をし始めると、頂上に着くころにはいつものメンバーに戻る予感がした。それがお調子者を駆り立ててしまった、といえるのだが。結果的に功介は周囲の怒りを買った。

すべて暑さのせいにできるだろうか。

「っざっけんなよ、スケ公よ!!!」

図体のでかい男が握りこぶしを振り上げる。メンバーを率いる、リーダー格の室井だ。殴ることにためらうつもりはなかった。

「動くなよ!」

殺気立った仲間の反応についていけず、功介は自然と身構え後ずさりする。室井の目に映るのは、功介自身なのかよくわからなかった。影が動いている。

「え、え、え」

蝉の声が木々か木々へと、反響し、責め立てるように功介の鼓膜を震わした。頬をつたう汗を汚れた手の甲でぬぐう。思わず地面を見下ろすと功介の網膜には太陽の光を受け止めた葉の一枚がうごめく様子をとらえ、地面の下に潜る何かの生命体だけとコミュニケーションが取れるのではないかと錯覚しそうになる。呼吸が荒くなるのがわかる。深呼吸してまぶたを閉じようとしたが、それは現実逃避にしかすぎない。

すぐさま、おい、と声がかかる。

功介の頬に衝撃が走った。